REPORT

Produce Next Report

~ベンチャー企業の成長ステージについて~

マネージャー 須藤 陽平

~第3回 レイター期のベンチャー企業~

過去2回のProduce Next Reportではシード期およびミドル期のベンチャー企業について取り上げた。今回は「レイター期」のベンチャー企業が本格的に意識し始めるEXITについて記載する。

IPOとは



IPOとは「Initial Public Offering」 の略称で、未公開の株式会社が、公開会社となることを意味する。株式公開をする主な目的としては、資金調達の多様化、知名度向上、社会的信用の増大等が挙げられる。資金調達の観点では、長期安定的な自己資本調達の手段である。

IPO時の時価総額の目安は100億円と言われている。時価総額が100億円未満の場合、市場からの注目に欠け、投資家の厚みや流動性が得られず、継続的な資金調達につながらない可能性がある。

株式公開のメリット/デメリット


株式公開により、資金調達力、社会的信用力・知名度が向上し、人材が確保しやすくなる等のメリットを享受できる反面、決算発表、企業内容の適切な開示等のIR活動の負担が増える等のデメリットがある。

費用負担は、企業の規模、業界等によって差はあるが、株式公開までに5,000万円程度が必要とされ、公開後も毎年数千万円の費用負担が発生する。

以下に、主な株式公開のメリット/デメリットを記載する

◇メリット

資金調達力の強化
公開市場から直接資金が調達できるため、資金調達力が高まる。資本市場から調達する資金は、基本的に長期安定的な資金であるため、財務体質を改善させることができる。

社会的信用力と知名度の向上
公開審査を通過することによって、優良企業であるとの評価が得られ、取引先や金融機関等からの信用力が高まることで、それらが更に売上向上をもたらすことも期待される。

◇デメリット

事務負担の増加
決算発表、有価証券報告書の作成・提出、株式事務、株主総会運営等の事務負担増加により、継続的にコストがかかる。

経営意思決定の迅速性、自由度の制約
これまで、創業者によって速やかに意思決定されていたものが、一定のプロセスを経る必要があり、組織的な意思決定までに時間を要する可能性があり、また、投資家からの評価や株価の変動に左右され、経営の選択肢が制限される場合がある。

EXITとしてのM&A


最近では、EXITの手法としてIPOだけでなく、M&Aも増加している。株式の全部、または一部を売却することで資金を得ることができる。事業会社による買収が一般的だがファンド等の金融機関による買収のケースもありうる。IPO同様にM&Aにも良い面と悪い面がある。

◇メリット

事業価値創造に集中できる
資本市場の評価や株価の変動を意識することなく、経営に集中することができる。

自由度の高さ
IPOでは、すぐに株式を売却できない等の制約があるが、買い手企業との交渉次第で短期的にキャッシュを獲得することも可能。価格が折り合わない等があれば、売却中止の判断など、機動的に動きやすい。また、煩わしい管理体制の構築も不要。

◇デメリット

M&A市場の未発達
ベンチャー企業における、M&Aは最近では増加しつつあるものの、米国と比較すると国内市場は歴史が浅い。そのため、買い手企業が限定的で、買収価格が高まらず買い叩かれる可能性がある。

従業員のモチベーション低下
新会社での地位・処遇、士気低下の可能性がある。これが原因で売買が成立しない要因となりうる。

終わりに


上記の通り、手法ごとにメリット/デメリットがあるので自社に適したEXITの方法を選択する必要がある。それらに加えて、EXITに向けてはVC等の投資家、証券会社、買収候補企業、経営陣、従業員等の多くのステークホルダーとの調整が必要となる。それぞれの利害関心がある中で、全員の利害を調整するのは非常に困難である。VCや証券会社もそれぞれの利益を最大化するために行動するので、必ずしも自社の企業価値最大化のために、働いてくれるとは限らない。各ステークホルダーの思考や思惑を理解したうえで、自社の目指すEXITを実現することが肝要である。