~第1回 コロナ前後でDXがどう変化したか~
昨今の新型コロナウィルスの大規模な感染拡大により、企業や個人は大きな変化を求められています。大きく需要が減り悲鳴を上げる企業が存在する一方で、新たな商機を見出している企業も存在します。
その様な状況下で、DXにも変化が訪れています。DX自体は過去のProduce Next Reportでも触れていますが、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念を指します。新型コロナウイルスにより人々の価値観が変化しており、その影響はDXを語る上でも無視出来ません。
そこで、これから3回に渡り、新型コロナウイルスの影響によるDX市場、企業の対応、人々のマインドの変化などについて解説をしていきます。
新型コロナウイルスは、市場規模に様々な変化を与えました。特にマイナスの影響の大きい業界としては、観光・飲食・百貨店・航空業界等が挙げられます。例えば、帝国データバンクの発表では、新型コロナウイルス関連倒産は全国で279件あり、その内最も多いのが飲食店の43件とあります。また、長年就活生に人気のある航空業界においても、JALグループが21年度採用を中断したといったニュースがありました。これらの業界は、提供しているサービスの性質上、対面が前提となっている部分が大きく、3密回避が難しいために影響を大きく受けていると考えられます。
その様な背景から、3密を回避する対策として注目されているテクノロジーの1つに、「コンタクトレステック」と呼ばれるものがあります。紫外線殺菌技術・ロボット活用・タッチレス操作など、人の接触を伴わないようにするテクノロジーの総称です。紫外線殺菌技術はシェアカーや床掃除ロボへの導入が進んでおり、ロボット業界では自動配膳ロボットといった配送作業への応用が進んでいます。
他にも、ビデオ会議や遠隔操作など、オンラインに関わる領域では市場規模の拡大が見込まれており、今後のDXは「如何にデジタル/オンラインを前提とした仕組みを作れるか」が鍵となってくると考えられます。
新型コロナウィルスの流行によって外部環境が大きく変化する中で、多くの企業もまた変革の必要性に迫られています。各企業は、コロナ禍における緊急対策実施とAfterコロナ禍を見据えた中長期戦略の再策定を速やかに実行していく必要があります。また、働き方改革の流れも受け、働き方の多様化に追従出来る必要もあります。
具体例の1つとして、遅々として進まなかったリモートワークが普及するといった変革が起きています。内閣府からは、「テレワークを全国で34.6%、東京23区で55.5%が経験し、東京23区の経験者55.5%のうち9割が継続して利用したいと回答した。」という調査結果も発表されています。
また、「フルーガルイ・ノベーション」という考え方も普及しつつあります。これは、「質素なイノベーション」と訳されるもので、「その土地で手に入る範囲内での資源・情報を活用し、現地インフラや顧客の生活実態に見合った技術を使ってコストを最小限に抑えつつ、身近な社会的課題を解決するイノベーション」という概念です。デジタル化が遅れていると指摘されている医療業界での普及が例として挙げられます。遠隔診療の必要性に迫られたことから、「とりあえずやってみて、すぐに作って結果を出す」というスピード感を持って対応した結果、デジタライズ化された聴診器といった製品が生まれました。
コロナ以前から変革を目指していた企業にとっては、今が変革のチャンスとも言えます。
新型コロナウィルスにより、個人レベルでも、三密を回避したり不要不急の外出を控えたりという生活の変化が訪れました。緊急事態宣言下で自粛生活が余儀なくされたこともあり、人々のマインドも変化したと考えられます。例えば、外食や対面イベントなど外での交流が当たり前だった日常から、デジタルを活用した3密回避の交流への移行が挙げられます。最近では「オンライン飲み」という言葉も当たり前になりつつあります。また、「職住融合」といった考え方も受け入れられつつあり、出社を伴わない働き方が広まっています。
DXという観点では、エンタメ業界や飲食業界での検討が進んでいます。ライブイベントが続々中止となる一方で、VR/ARといったXRの活用が進みつつあり、自宅にいながら、スポーツや音楽といったイベントを体験できる仕組みの構築が始まっています。Uber Eatsに代表されるような飲食配送サービスも人気を拡大しており、需要予測・需給マッチング・最適回路予測といった技術への期待が高まっていると考えられます。
Withコロナ/Afterコロナ時代のDXとして、社会レベル・企業レベル・個人レベルそれぞれの変化について概要に触れました。特に企業にしてみれば、社会や個人での変化に柔軟に対応する姿勢が必要です。一部では「DXごっこ」と揶揄される状況も生まれていますが、本気でDXに取り組んでいかないと淘汰されてしまう可能性が考えられます。
コロナ時代に企業が取り組むべきDXとして、次回は短期的にやること、その次は長期的にやることを解説していきます