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Produce Next Report

~M&Aで戦略目的を達成するために~

取締役 甲斐 健太郎

~第3回Post Merger Integrationを成功させるポイントは何か~

M&Aやスタートアップへの投資について、確実に戦略目的を達成し、インパクトを出していくために重要なのは以下の3点と考えている。

・何のためにM&Aやスタートアップへの投資を行うのか

・そのためにM&Aやスタートアップへの投資が最善の手段なのか

・M&A後戦略目的に向けたインパクトを出すためにPost Merger Integration(PMI)を成功させるポイントは何か

(以下M&Aという言葉のこの記事内の定義としては、過半数以上を買収して経営権を取得すること、としたい。)

1回目は、上記のうち1点目について、M&Aは目的ではなくあくまで手段であること、まずは企業価値向上あるいは生き残りに向けた力強い戦略を確立すること、M&Aはどのような目的の際に活用されるのか、という点について述べた。前回は上記の2点目について、投資対効果、リスクという観点でM&Aありきの検討に固執せず、業務提携、資本業務提携という判断を行うことも一つの方向性であることを述べた。今回は、その上でM&Aを選んだ場合、如何に買収した企業をマネージ(PMI)し、戦略目的を達成するか検討する上で留意すべきポイントについて考察したい。

これまで述べた通りM&Aは様々な目的で行われる。①販売チャネル・拠点・生産力などの規模の拡大とそれに伴う合理化・コスト構造改善、②すぐれた技術力・開発力やそれを活用した商品/サービスを取り込むことによる競争力の強化、③他業界の企業、新興企業やスタートアップなどを買収することによる新規事業・多角化展開(スピードを買う)という3つが主な例として挙げられると考える。それぞれの目的において、策定している戦略は正しく、M&Aも成功した場合、次は如何に実行しインパクトを出すかという段階となる。M&Aにおいては買収後想定している/出さなければならないインパクトがある。売上の向上、コストダウン、利益の向上、新製品のローンチ、それらを実現するためのシナジー発現、などである。またそのためにどれくらいの投資を行うかもM&A時には想定されている。しかしながら、想定どおりには行かないケースも多く、特に以下のような実行上の留意点が挙げられる。

1. 人・カルチャーに関するもの

2. オペレーション・ITに関するもの

3. 経営管理・ガバナンスに関するもの

1. 人・カルチャーに関するもの

買収した企業の強みを突き詰めると何人かのキーパーソンが保有しているというケースがある。ノウハウやスキル、技術力がシェアされていない/シェアできるタイプではない場合である。特にスタートアップではその傾向が強い。この場合キーパーソンが離職した時点で買収した効果が著しく減少することになる。キーパーソンをどうすればretentionできるのかをあらかじめ計画しておかなければいけない。買収前にその企業の強み/買収により獲得したいものの源泉はどこにあるのか?人なのか?商品なのか?生産設備なのか?特許なのか?を明確にし、その保全措置・コストを買収前に検討、買収額に織り込むことが必要と考えている。

人事制度・評価制度の違いなどから来る待遇の違いにどう対応するかも重要なポイントとなる。子会社として別会社のままとする場合はまだよいが、合理化などの統合効果を出すために一つの会社に合併した場合には非常に困難を伴う。多くの場合、片方の企業の社員の方が同じ能力でも給与水準が高く、それに全体を合わせるのも困難で、とはいえ給与水準を落とすのは不利益変更となるので慎重な対応が求められ、離職にもつながる。というジレンマに迫られる。また、配置などでどちらかが差別的な扱いを受けているといった印象が出ないようにすることも離職防止の観点では重要となる。

そのため、無理に一つの会社とせず、別々の会社のままシナジーを出していこうという考え方も合理的な場合がある。特にスタートアップ/新興の成長企業の場合は社内のカルチャーや社風が社員の活発な行動力につながり成長の源泉の一つとなっていることもあり、別の会社のままとしておくことが望ましいと考えている。シナジーを出す上で重要なことの一つが責任者同士または担当者同士の性格と相性である。ロジックではなく情実の話にはなるが、シナジーを出そうとする行為は現状の業務を変えるまたは追加で行うことになり、現場に好意的に受け入れられることは少ない。そのような中でも困難を乗り越え、関係者を調整しながら推進できる人材を両社に配置する必要があり、またそれぞれが同じ気持ちで協力し合えるかがシナジー発現の非常に大きなポイントになると考えている。

2. オペレーション・ITに関するもの

これまで続いてきたオペレーションやITシステムの仕様がPMIの大きな障害になることはよく起こりえる。シナジーを発現するための拠点の拡大などにおけるオペレーションの統合は難易度が高く、またITシステムの統合もどちらかのITシステムの改修では済まず、全面的な改修となり大きなコストとなることが想定される。また、買収先のノウハウ・技術を用いた新たな商品・サービスを導入する際にも既存のオペレーション、ITシステムでは対応できず、新たに設計、構築し、既存の基幹システムと如何に連携させるか、といった課題が生じることも多い。

3. 経営管理・ガバナンスに関するもの

過度なグリップまたはルースな関わり双方にリスクが生じる。特に大企業が中小企業を買収した場合、大企業が行っているような精度での計画策定、KPI・PDCA管理を行うだけの人材が買収先にはいないことがよくある。買収先に対して、精度の高いForecastや月1回の報告会議などを要求した場合、買収先経営陣が親会社への報告のために取られる手間や時間が増え、本業への関与が弱くなってしまう、といったケースも見られる。一方特に海外企業の買収などにおいて想定されるが、言葉や文化の問題で、買収先企業に幹部を送り込んでも十分経営に入り込めず、独自の経営が続き、シナジーが発現しないどころか、後になって重大な事象が発覚することも想定できる。過度とルースの中庸を如何に取るかが求められる。

上記のような留意点に対し、根本的な解決策を見出すことは簡単ではない。しかしながら、M&A後のPMIでは上記のようなことは往々にして起こりえるということを前提にし、そのための対策コストも想定した買収金額を設定するということが一つ対策として挙げられるかもしれない。また、上記のようなことを解決していくための適切な人材の確保も重要と考える。推進型の人材、調整型の人材、オペレーション・ITのスペシャリストなどが必要な人材と考えている。
RISE CONSULTING GROUPではこれまで3回に渡って述べたM&Aに関する論点についてご支援しております。お悩みの際には当社までお声掛け頂きたい。