第18回目は、Fintechにより、何が変わるのか?について、ご紹介いたします。
「木」が見えても「森」が見えにくい Fintech の動向「いろんなベンチャーの経営者に会ったり、カンファレンスにも出ているんですが、Fintech の全体動向がつかめません」、「中長期でFintech が大きな変化をもたらすと思います。脅威にもなりかねません。Fintech にどう向き合うべきか悩んでいます・・・」
最近、金融機関や IT 企業の経営者や事業開発の方とお話しすると、こんな悩みをよく聞く。確かに昔は各種技術開発ロード
マップがあった。自動運転や AI は、目指すべきソリューションの姿が明確だ。よって、それらの領域で、「全体動向が見えにくい」ということは少なかったかもしれない。
但し、Fintech は異なる。例えば、ベンチャー企業の情報を取りまとめる AngelList というサイトを見ても、Fintech には2,000 社弱が掲載されている(2016 年 5 月段階)。ビッグデータの 3,500 社超と比べると少ないが、ロボティクスの 500社強、E コマースの 1,100 社超と比べると多い。さらに、「2010 年に米国で起業した決済 Fintech の 43%が消滅した」という分析もあるほど、環境変化は激しい。確かに全体動向が見えにくい領域かもしれない。
では、全体動向をどう捉えるといいのだろうか?
まずは「コストダウン」で既存の金融機能の代替を果たそうとしている
RobinhoodやMotifという米国のFintechサービスをご存じだろうか?通常米国では株式取引手数料が7~10ドルかかるが、Robinhoodは無料で株式取引ができるサービスだ。Motifも、9.95ドルの定額でテーマ性のあるポートフォリオを購買できるサービスだ。
両社共に、スタートアップとしては立ち上がりが順調で、さらなる成長が期待されている。では、なぜ低コストで魅力的なサービスを実現させることができるのか?理由は大きく3つ程考えられる:
1. 装置産業的側面が強い金融業だが、アマゾンウェブサービス(AWS)のようなクラウドサービスを活用することで、新規参入者は既存金融機関とは全く異なるコスト構造を実現できるようになった
2. ビジネスモデルを工夫して、ユーザ以外からの収入源を確保した。その分ユーザへの課金を少なくすることが可能になった
3. 特定の領域に専門特化することで、圧倒的に強い/特徴のあるサービスを作ることができた(ある意味、後出しじゃんけんで、必ず勝てる領域のみで勝負することに似ている)
日本では、必ずしも同様のビジネスモデルを構築できるとは限らないので、上記 2 社が日本市場を席巻するかは不明である。
但し、以下 3 点を満たす日本の事業機会に、Fintech ベンチャーが参入してくる可能性は高いのではないか?
● ユーザからみてサービスが高コスト
● より安価なシステム構築が可能
● ユーザ課金以外の収入源を構築可能
わかりやすい例では、テックビューロ社の mijin というサービスは、「我々のミッションは、2018 年までに金融機関のインフラコストを 1/10 未満にまで削減することです」と標榜している。
今後の競争は「あるべき金融サービスの実現」に向かうではコストダウンだけが Fintech の価値だろうか?もちろん違う。Fintech がコストダウンの次に目指すのは、ユーザにとってのあるべき金融サービスの実現ではないだろうか?
例えば、Simple という米国生まれのサービスをご存じだろうか?銀行代理店業におけるスタートアップだが、創業者の一人が銀行で頭にきた経験を基に「銀行をもっとクールに」という想いをもったことが起業のきっかけと言われている。
Simple でどのようなサービスが受けられるかと言うと、以下の特徴を持つ
● 預金金利が安いかわりに、、、
● 50,000 件の ATM の使用料が無料
● 家賃や食費等の支出計画を立てると、「今、安心していくら使えるか」がわかる
● 結婚資金や欲しいものの計画を立てると、自動的に積み立ててくれる
● 全ての手続きがスマホからできる
つまり、スマホのシンプルで美しい画面を見ながら、個人のキャッシュマネジメントが無料でできるサービスだ。しかも、自分の既存の口座と連携できるので、解約等の手間も少ない。こういったユーザ体験(UX)に、つい興味をそそられないだろうか?
他にもたとえば、Acorns という米国生まれのサービスもある。これは、自分が買い物に使うクレジットカードやデビットカードと連携し、買い物時に「お釣りの端
数」を、自分の選んだ投資先に自動的に投資する仕組みだ。例えば、9 ドル 20 セントの買い物をするとき、10 ドル支払い、お釣りの 80 セントを自動的に投資に回していくのだ。
日本でも、500 円玉貯金等、毎日コツコツためるという概念はあるが、持続も難しいし、投資リターンもゼロ。それと比べると、自動でコツコツ投資でき、かつ運用成績を見ながら、投資家としての勉強もできるのは一挙両得のサービスではないだろうか?
当社は、Fintech をスタートアップ企業や金融業界への新規参入者への機会のみならず、既存の金融機関にも大きな機会になるとみている。つまり、次の 30 年の競争優位性と成長の柱を獲得する機会としてとらえることができる。もちろん、既存の金融機関にとっては大きな変化だ。そして、その変化を「傍観」していては、おそらく「変化がピンチ」に変わってしまう。
但し、今から Fintech の動向を注視し中長期のシナリオを描き、その中でどの「変化」を自らの機会に変えるために能動的に動くのか考えることが重要だ。Fintech への投資は過熱する一方だ。飛び込むなら、今だ。