~第3回 デジタルトランスフォーメーションの未来~
第1回では、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)とは何か、なぜDXが求められているのかについて、また第2回では、DXを推進する上での課題およびDXを推進しなかった場合の影響と今後の展望についてお伝えしてきました。そして最終回となる第3回ではDXによって実現する未来をテーマにしたうえで、DX全体のまとめに入りたいと思います。
20第1回で少し触れましたが、安倍内閣の成長戦略のひとつの中にDXの実現を軸としたSociety5.0というものがあります。内閣府の資料においてはSociety5.0を次のように定義されています。「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」。これまでの情報社会(Society 4.0)では、人がサイバー空間に存在するクラウドサービス(データベース)にインターネット経由でアクセスして、情報やデータを入手し、分析を行ってきました。Society 5.0では、フィジカル空間のセンサーからの膨大な情報がサイバー空間に集積されます。サイバー空間では、このビッグデータをAIが解析し、その解析結果がフィジカル空間に様々な形でフィードバックされます。今までの情報社会では、人間が情報を解析することで価値が生まれてきました。Society 5.0では、膨大なビッグデータを人間の能力を超えたAIが解析し、その結果がロボットなどを通して人間にフィードバックされることで、これまでには出来なかった新たな価値(=経済発展と社会的課題の解決)がもたらされることになります。
例えば、交通の世界では自動運転やMaaSといったものがあります。自動運転では車両の位置情報や車両の周辺情報をリアルタイムで解析し正しく安全に道案内します。MaaSはMobility as a Serviceの略称で「ICT を活用して交通をクラウド化し、マイカー以外の全ての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな移動の概念」を意味します。MaaSではユーザーの位置情報や各乗り物のサービス情報(位置、所要時間、空き状況等)をリアルタイムで解析しユーザーに安くて早い最適な移動手段を提案します。
また医療の世界では予防医療などがあります。ユーザーの生体情報(脈拍や血圧、血糖値等)をリアルタイムで収集しAIが解析。必要に応じて早期の診察アラートや最適な治療法の提案などがサービスとして提供されます。
このようなサイバー空間とフィジカル空間がリアルタイムで融合するSociety5.0の世界をDXによって実現させていくわけです。
ここDXを支える技術について少し触れたいと思います。DXを支える技術の筆頭としてAIがあります。AIについては、日本では自動車の自律走行など技術面ばかりに注目が集まりがちですが、海外では人間の能力を拡張するAIの可能性が多く模索されています。例えば、インテリジェンスインターフェースの一つである画像認識技術(主にグラス型デバイス)と記憶を拡張するAIを融合させ、見たものすべてを記憶するような世界を目指す認知拡張の研究開発が進んでいます。また記憶の拡張以外にも人間の能力拡張として、あらゆるものがネットワークにつながった状態の「IoA(インターネット・オブ・アビリティズ)」があります。これはネットワークを前提とした能力拡張を意味します。ネットワークでつながった第三者が自分の頭のなかに入り込んで、追体験することができるような世界です。人間の能力が本人だけに付随しているのではなく、ネットワークを経由して他人に助けを与えたり、あるいは他人から能力をもらったりすることができます(この他人には人だけでなく、AIやロボットも含まれます)。このような人間や機械の能力がネットワークで結ばれていくのがIoAであり、IoTの次にやって来る大きな潮流と予想されています。
このようにサイバー空間とフィジカル空間の融合を実現させるような技術革新(研究)が日々行われております。上記のAI技術はひとつの例として提示しましたが、次世代コネクティビティー、インテリジェントインターフェース、DevSecOps、クラウド、アナリティクス、デジタルエクスペリエンス、コグニティブ、ブロックチェーン等々挙げれば切りがないですがDXの実現を支える技術は多く存在します。そしてどの技術においても日々技術革新が進んでいます。
Sosciety5.0の世界、技術革新について話してきましたが、ではDXの先には何があるのでしょうか?
例えば2020年より導入される5Gのさらに次世代の6Gの検討が各国で始まりました。2030年前後の導入と見込まれている6Gですが、何が実現できるのか、どのようなものかはまだ定義されていません。現状と比べて通信容量が拡大し通信も高速化し通信に必要なモジュール(構成要素)があらゆるものに溶け込むため、人々がバックグラウンドでの通信を意識することなく情報処理が行われるようになると考えられています。また、これまで一般的に利用できなかったサービスも期待できるかもしれません。例えば、米マイクロソフトが開発中のテレポーテーションをしたかのような体験ができる”Holoportaion”(遠隔地にいる人を、3D映像として別の場所へ移動させる技術)が今よりずっと現実味を帯びてきます。
ここで述べたいのはDXの先の世界の正しさではなく、バックキャストアプローチの必要性です。上記のHoloportaionの世界が10年後なのか15年後に来るのかわかりませんが、そう遠くない未来に実現すると考える人も少なくないでしょう。DXを現状のIT課題として捉えるのではなく、2030年など少し先の未来を想像し(破壊的に変化した世の中を想像し)未来に備えた早めの対応として捉える視点が必要なのです。
DXについて3回にわたりレポートしてきましたが、最後にまとめさせていただきます。弊社が定義するDXとはデジタルテクノロジーを積極活用し、新たなビジネスモデルの創出および、既存のビジネスと組織を根底から変革し続けることです。
。「Society5.0」や「DXのさらに先の世界」の項で示したように社会はデジタルとリアルがシームレスに融合した世界に進化していきます。また、それを支える技術革新が目まぐるしいスピードで進んでいきます。そして、企業はそれらの破壊的な変化に備えた経営戦略を考えていく必要があるのです。多くの企業はDXを既存のシステム開発の延長線上に捉えがちですが、(大げさな言い方ではなく)世界はまさに大転換のタイミングになっており、企業の在り方や経営に対する考え方を大転換させる必要があります。キーワードは「根底から変革」「し続ける」ことです。