~第1回 デジタルトランスフォーメーションと日本の現状~
2019年10月、「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定されました。これは、新たなデジタル技術や多様なデータを活用して経済発展と社会的課題の解決を両立していく「Society 5.0の実現を目指す」という政府方針に基づいて、この実現のために「企業のデジタル面での経営改革、社会全体でのデータ連携・共有の基盤づくり、安全性の確保を官民双方で行い、社会横断的な基盤整備を行うための措置を講ずる」ためのものです。
Society 5.0とは、「仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」とされており、この実現のためには、多くの企業や団体がIoTやAI等のデジタル技術を駆使して、ビジネスや社会全体を変革(トランスフォーム)していくことが不可欠です。従って、Society5.0を目指すことはデジタルトランスフォーメーションを推進することであり、今回から3回に亘り、「デジタルトランスフォーメーション」にスコープをあてたレポートをお届けします。
デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)は、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」(DX推進ガイドライン – 経済産業省)と定義します。
企業のDX推進が求められる理由は、大きく3点あります。
1つ目は、カスタマーエクスペリエンスの向上。急速に進化するデジタル技術を活用することで、顧客に対して新たな体験や付加価値を提供することができます。タクシー業界に参入したUberや、ネットオークションサービスに参入したメルカリ等が分かりやすい例です。
2つ目は、ビジネスの加速とグローバル化への対応です。日本では、海外発のサービスが急速に日常生活に浸透しており、例えばAmazonの登場によって書店を利用する頻度が減り、Netflixの動画ストリーミングサービスの登場によって、DVDをレンタルしたり、ダウンロードして観たりという機会が減り、従来のサービスが海外企業によるサービスに置き換わってきています。
3つ目は、既存システムの限界です。経済産業省が「DXレポート」等でも指摘している通り、クラウド技術やIoT、ビッグデータ等の活用によって、比較的安価にシステムを構築したり、サービスの精度を上げるようなことが可能な時代になっているにも関わらず、多くの企業はレガシーシステム(老朽化、肥大化・複雑化、ブラックボックス化したシステム)を利用し、さらにそれらがオンプレミス型のシステムであることで、メンテナンスや機能拡張等に係る費用や工数が非常に高くなっています。これではそもそも、次々に登場するデジタル技術を活用することや機動的なシステム構築ができません。
DXは、2004年にウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされ、ストルターマン教授はDXに至る段階を3つのフェーズに分けました。DXの実現とは、この第3フェーズのことを指します。
◆第1フェーズ:IT利用による業務プロセスの強化
業務効率や品質を高め、これを維持するために業務プロセスを標準化し、マニュアル等による運用を徹底しても、人が運用する以上、ミスの発生は防げない。そこで、標準化された業務プロセスを情報システムに置き換えることで業務効率や品質を向上させる。
◆第2フェーズ:ITによる業務の置き換え
業務プロセスを情報システムに置き換えたうえで、ITに仕事を代替させ自動化する段階を指す。これによって人的ミスや労働時間を減らすなどでき、業務効率や品質を高めることが可能。RPA(Robotic Process Automation)はこのフェーズに位置づけられる。
◆第3フェーズ:業務がITへ、ITが業務へとシームレスに変換される状態
人が効率的に働くために最適化された業務プロセスを、機械が働くことを前提に最適化された業務プロセスに組み替え、更なる業務効率化と品質向上を追求する段階。
この数字は、2019年9月にスイス・ローザンヌで発表された「世界デジタル競争力ランキング(World Digital Competitiveness Ranking)」における日本の順位です。世界デジタル競争力ランキングは、「IMD世界競争力センター」(スイス・ビジネススクールIMDの研究所)*が、世界主要国63ヶ国・地域を対象に、デジタル競争力を分析・評価しているもので、ランキング自体は年に一度発表されています。日本の直近3回の順位は、23位(2019年)、22位(2018年)、27位(2017年)と低迷する一方、直近3回の上位3位はアメリカ・シンガポール・スウェーデンが占めています。
※世界デジタル競争力は、「知識(Knowledge)」、「技術(Technology)」、「将来への備え(Future Readiness)」の3つのファクターで構成され、それぞれ3つずつサブファクターが定義されている。これを公知の統計データや調査データで51項目に渡って評価している。
日本は、51の評価項目のうち4項目で63ヵ国中の最下位となっていますが、このうち3項目(「機会と脅威」、「企業の機敏性」、「ビッグデータの活用・分析」)が、「将来への備え」のサブファクターである「事業変革の俊敏性」(全5項目)に属する項目です。
この項目での評価が低いことは、日本の産業界としてDXを推進していくことの土壌(意識、戦略、インフラ等)がまだまだ整っていないことを示唆していると考えられ、政府や経済産業省が本腰を入れてDXへの取り組みを強化したことは、当然の取り組みと言えます。
弊社でもDXに関連するプロジェクトの引き合いは増えており、業務改革や組織改革のプロジェクトでは、DXの視点で以て企画・設計などの上流フェーズから支援する案件も増えています。DX案件と称するプロジェクトの中には、一部の業務にRPAやソリューションを導入して終了、というものも多く存在する状況ですが、強く意識すべきはデジタルへとトランスフォームした結果として生み出すことができる価値であり、世界を舞台に覇権争いを繰り広げるGAFAやBATなどによる既存のビジネス構造の破壊(ディスラプト)への備えです。
企業においては、自社が提供するビジネスの構造が今後どのように変わっていくかを明確にイメージし、それも踏まえたうえで、自社のビジネスをどのように変革し、何を実現するのかを具体化していく必要があります。弊社は、事業価値を最大化するための全社的なデジタル化戦略の策定やそれらのハンズオンでの支援を強みとしており、ソリューション導入に主眼を置いたデジタル化推進とは一線を画しており、この強みを生かしたご支援を継続していきたいと考えています。
「デジタルトランスフォーメーション」は、今後益々注目される取り組みになります。Amazon社は「最高の顧客体験」を企業理念として掲げ、これを実現するための手段として、大いに最新のデジタル技術を活用し、猛烈なスピードで事業を拡大させています。
日本企業においても、「デジタルトランスフォーメーション」はあくまで企業のビジョンを実現するための「手段」であることは念頭に置きつつ、これが「強力な手段」に違いないことを意識して取り組みを加速させていくことが求められます。