第14回目は、AI(人工知能)時代の人材育成について、ご紹介いたします。
「うちの企業では昇進の機会は年 4~5 回あります。若手
であれば基本書類を出してもらえば部門判断で昇進させるこ
とができる。そのくらいのペースでレビューしないと優秀な人が
辞めてしまいます」、「AI で簡単な性格診断のようなことがで
きるようになりました。ゆくゆくは、これを使ってポジションへ適性
が高い人を見つけたり、チームと相性の良い人を人選できたり
するかもしれませんね」、「いつでもどこでも働けるワークスタイ
ルは当たり前で、これだけではもう差別化できません。弊社で
は最近、外部の方とのコラボレーションしやすい拠点を作って
お客様やパートナーの方に開放しています」、「ペイ・フォー・パフォーマンス(成果)は古いと思います。今は、ペイ・フォー・リテン
ション(転職抑止)です。つまり、自社の給与バンドや横並び(キャリブレーション)よりも、優秀な人の満足度を重視した報
酬を支払っています」・・・
上記はこの半年程で、複数の外資系企業の経営者や外資系人事コンサルティングの経営者の方に教えて頂いたことだ。率
直に言って、「びっくり」だった。ここまで進んだ人事制度をすでに運用しているとは思わなかった。皆さんにとっては当然のことだろ
うか、それともびっくりだろうか?
しかし、思い返すと Google の人事担当上級副社長ラズロ・ボック氏が書いた「ワークルールズ」にも、一般的な日本企業の
人事制度とは大きく異なるものが多く見られる。「人事評価のプロセス/判断材料は公開し透明性を上げる」、「チームの創出
する価値の 90%は、上位 10%が創る。だから、報酬は不公平でいい」等の、「人事部門の常識の真逆」とも言えそうな大胆
な施策を、多くの実験による検証を経て実施している。
先進企業の人事制度は、今まさに圧倒的なスピードで進化しつつある。
では、なぜこれだけの進化をしているのだろうか?
一言で言うと、その進化は「最優秀な人材の採用・維持」が、そこそこ優秀な(またはそれ以下の)人材数十人~数百人
の採用・維持よりも重要になってきているからだ。
その背景には、短期・中長期と分けて、二つの潮流がある。
まずは短期の潮流だ。前述のラズロ・ボック氏も記述しているが「一流のエンジニアは平凡なエンジニアの 300 倍以上の価値
がある」に象徴されるような潮流だ。つまり、「うまくコードをかける人より、全体のアーキテクチャを設計できる人」、「既存事業を回すより、新しい事業を創れる人」等の「新しい価値」を生み出すことができる人が、企業の競争力を高める上でどんどん重要視されている潮流だ。日本では「年収が数百倍違う」という水準まで至っていないが、人材マーケットでは希少人材として引く手あまただ。
中長期の潮流とは、AI やロボット等の機械化により今人間がしている仕事がどんどん AI 等に代替されていくので、代替され
ない業務領域の一流人材は世界中から声がかかるようになっていく、というものだ。
だからこそ、今から「人事制度を平均的な人材のための設計」から「トップ人材のための設計」または「トップ人材は通常の人事制度とは切り離して評価できる仕組み」等に切り替えていく必要があるのだ。そうしないと優秀な人材は、自分をより正当に評価してくれる会社に流出してしまう。
ところで、AI によりビジネスは中長期的にどう変わっていくのだろう?
AI に関してはさまざまな定義があるが、この場では「自ら考え、学習できるコンピュータ」と理解頂きたい。AI がさまざまな経験
を通し、学習し、より効率のよい目的の達成の仕方を学んでいくのだ。
いくつかの書籍や調査に目を通すと、今後 AI の進化により人間の現在の業務は半分から 9 割程度なくなると言われてい
る。
<例えば>
・「10~20 年で、47%の仕事が機械に代行される」(オックスフォード大学マイケルオズボーン準教授)
・「(AI の影響により)10~15%の人が大変豊かになり、残りの人は給料が変わらないか下がる」(ジョージメイソン大学タ
イラーコーエン教授。2011 年世界の思想家 Top100 人)
・「近い将来、10 人中 9 人は今と違う仕事をしている」(アルファベット社ラリーペイジ CEO。元 Google CEO)
次回、2 月掲載の Produce Next Report では、どんな領域が AI に置き換わるのか?について掘り下げていきたい。