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Produce Next Report

~AI導入の動向について~

パートナー 北村 俊樹

第 42 回目は、AI 導入の動向についてご紹介いたします。
このところほぼ毎日のように人工知能に関する記事が新聞を飾っている。今後 3 回にわたり、ビジネスでの人工知能の導入動向について連載する。

第三次人工知能ブーム



今、人工知能(以後、AI)は第三次ブームにある。これまでの AI から何が進化し、どのように利⽤されているのだろうか。

AI の歴史は古く、第一次ブームは 1950〜60 年代に遡る。当時の AI は、迷路やパズルのようにルールが厳密に定められ、かつ、予め解が決まっている問題において、その解に到達できるかを問うレベルであり、ビジネスでの問題解決に使えるものではなかった。

その後、1980 年代に到来した第⼆次ブームの AI は、推論に必要な「知識」と「ルール」を予め登録しておけば、問題で与えられる情報を「知識」と「ルール」に照らし、適切な解を⽰すことができ、医療診断等での活用が期待された。しかし、実際の診断に⽤いるには膨⼤な「知識」と「ルール」を⽭盾無く登録しなければならず、実運⽤には⾄らなかった。

それに対し、今回の第三次ブームの AI で最も特徴的なのは、⼤量のデータを与えれば AI が⾃ら「知識」を学習(「機械学習」)でき、尚且つ、その「知識」を定義する「特徴(要素)」さえも AI 自ら習得(「ディープラーニング」)できるようになったことである。
このディープラーニングが注目される元となった最も有名な成果が、Google が 2012 年に発表した猫の画像認識である。この成果により、AI のビジネスでの活用の可能性について、一気に注目を集めることになった。

ビジネスへの AI 活用


その後ビジネスで AI はどのように活用されだしているのか。
<認識(識別)>

画像認識を応⽤した最も直接的な事例としては、医療におけるレントゲンや超⾳波画像の診断、製造ラインにおける画像による不良品検査、銀⾏などの OCR によるデータ⼊⼒業務などがある。
具体例として、⽶国の Enlitic では X 線や CT の画像から悪性腫瘍を検出するサービスを導入し、従来の放射線医師による検出精度を 5 割以上上回る成果を出している。国内においても国⽴がん研究センターやキャノンなどが同様の開発を進めている。キューピーでは、この画像解析の AI 技術を製造ラインにおける異物混⼊と不良品の検査に導⼊し、それまでの⼈間による作業に⽐べ、検査速度を 2 倍にアップと検査精度の向上を果たした。

類似の応⽤には⾳声認識があり、損保ジャパン⽇本興亜がコールセンターでの顧客との通話内容をテキスト化し、その結果から関連する回答をオペレーターの PC に表示する機能を導入している。

また更に、⾳声認識と⾃然⾔語処理技術の組み合わせにより、iPhone をはじめとするスマートフォンの音声アシスタントや Amazon やGoogle の AI スピーカー、更には、コールセンターでの⾃動応対サービス、チャットボットへの導⼊が進んでおり、多くの銀⾏が採⽤を始めている。

<分析・予測>
認識分野の他には分析・予測分野での活⽤も始まっている。
例えばサイバーセキュリティの領域ではマルウェア感染時の予兆を AI で学習・分析し、実際のマルウェア侵入を検知するエンドポイント型の製品をセキュリティ各社が開発している。また、⾦融では JP モルガンが商業融資の契約審査におけるリスク分析に、ゴールドマンサックスが投資における株式市場分析に AI を導入しており、国内でも同様の取り組みを始める⾦融企業が現れている。三井フィナンシャルグループでは、ディープラーニングを⽤いてクレジットカードの不正利⽤を検知するアルゴリズムを開発し、従来は⼈が疑わしいと判断した取引のうちで実際の不正取引が 5%程度だったところを、95%を占めるまでに至っている。

<制御・最適化>
分析・予測を発展させ、設備の制御に応用する企業も出てきている。Google ではデータセンター内に数千個のセンサーを設置し、各設備の稼働状況や温度と消費電⼒との関係性を学習させ、更には周辺の気温、気圧の変化による気候予測の学習との組み合わせにより、40%もの冷却電⼒の削減を達成した。国内でも東京電⼒フュエル&パワーが同種の取り組みを進めている。

今後の AI 普及に備えて


こうした AI の急速な普及の背景には、スマホを含むカメラ、録音デバイスの普及やセンサー技術、ネットワーク技術の発達、IoT の進展などによるデジタルデータの蓄積が大きく寄与している。今後もデジタル技術の発達に伴い、AI の応用分野はますます拡大していくものと考えられる。
また、これまでに導入が進んでいる企業の多くは、IT や⾦融など早くからデータのデジタル化に取り組まれ⼗分なデータ量の蓄積が出来ている企業である。

これらのことから、AI 導入は未だ先と考えられている企業においても、新たなデジタル技術の発達と AI の発展を注視するとともに、⾃社への導⼊を⾒据えた活⽤領域の検討、および、必要データの整備・蓄積に早期に取り組まれることを推奨する。

次回は、AI をビジネスに導入するための環境として、各社からどのようなサービスが提供されているのかを探る。