第23回目は、幻滅期に入りつつあるIoTとAIについて、ご紹介いたします。
IT調査会社のガートナー ジャパンは、「日本におけるテクノロジのハイプ・サイクル:2016年」を発表した。ご承知のように、ハイプ・サイクルとは、市場に登場した技術が注目され、熱狂され、そして冷める時期を経て市場を確立していく典型的な経過を示したサイクルだ。
例えば、これまで幻滅期にいたクラウドコンピューティングは、本格的な普及段階に入った。これは我々の実感ともあっているのではないか?一方、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)は、「過度な期待のピーク期」にあると分析。今後は期待の反動から「幻滅期」へ次第に移行していく。
まずは、IoTが幻滅期に入るとはどういうことであり、日本企業としてどのように対応していけばよいか考えてみよう。IoTと言っても広いので、ここでは狭義に「これまでネットにつながっていなかったモノがつながること」と定義しよう。
現状、IoTで一定の投資を集めたり、売上を上げているのは、IoTのソフト・ハードや、プラットフォームの開発・販売だ。例えば、アマゾンであったり、日本企業ではジグソーなどだ。しかし、それらを活用してエンドユーザに価値を提供し、その対価で儲けている「IoTを活用したサービス業」は少ない。つまり、IoTの現状はインフラとしてのソフト・ハード・プラットフォームはできつつある。あとはいかに「今までつながっていなかったものをつなぎ、顧客がお金を払いたいと思える価値を提供するか」の勝負になっている。
しかし、それは思ったよりも難しい。顧客から見て、お金を払ってもいいような重要/高価なものは、ほぼすでにつながっているからだ。生活視点では、家、車、家電(の一部)はすでにネットにtun繋がっている。産業視点でも、拠点、工場、重要設備等は有線・無線で繋がっている。だからこそ、当面は既存事業の強化・効率化の観点でIoTが活用され、強者がさらに強くなっていく構造となるのではないか?
既存の強者に有利なIoTと比べ、AIは短期的には全く異なる様子をみせているのではないか?例えば、2014年にベータ版がリリースされた「シェフ・ワトソン」は、人間が探しにくい意外な食材のマッチを提案してくれた。2015年には「AlphaGO」が、初めて囲碁で人間のプロ棋士を破った。2016年には「ワトソン」が東大と組み、10分で癌を生み出す遺伝子を特定し、治療につなげた。コンセプトレベルでも、ユースケースレベルでも、まだまだ広がりがある魅力的な領域だ。つまり、特定領域に特化していけば、既存の強者でなくても成功の可能性は高い。例えば、裁判の証拠抽出等の強いフロンテオ、画像処理等に強いモルフォ等。とはいえ、理論上は「汎用AI」と呼ばれる、「あらゆる領域を独自に学び、進化するAI」が完成してしまえば、少なくともAIビジネスのプラットフォームは寡占化の方向に進んでしまうだろう。そして、その先端にいるのはGoogle、Facebook、Amazon等の企業だ。だからこそ、今のうちに新しい可能性を模索し、成功モデルを作り、来るべき汎用AIの時代に「売却、または、プラットフォーム利用者として戦う」という戦略オプションを残していくことが重要ではないか?特に日本はAI単体ではアメリカに劣後しているかもしれないが、AI×ロボティクスという領域では、まだまだ世界をリードできる可能性が高い。