~第2回:MaaSの事例~
前回のProduce Next Reportでは、MaaSの概念と課題について説明いたしました。今回は、MaaS領域の具体的な事例について、利用者視点での「身近な事例」と、提供者視点での「事業化の進め方、実際のプロジェクト事例」を紹介いたします。本レポートを通じて、未来の話と捉えられがちなMaaSが実は身近なものであり、今後急成長する中で、どのように対応していけばよいか、実感いただければと思います。
既に実装している身近な例として、「シェアサイクル」を紹介します。
シェアサイクルとレンタサイクルの違い
シェアサイクルとは、文字通り自転車のシェアリングサービスのことをいい、各所に設けられたポート(専用の自転車置き場)から自転車を借り、ポート内に返却するサービスです。レンタサイクルとの大きな違いは、借りる場所と返却場所が別地点でもよい点です。この点がもたらす違いについて、通勤時に利用する場合を例に考えてみましょう。
以上のように、シェアサイクルは利用者にとって大変融通の利くサービスと言えるでしょう。
シェアサイクルのメリット
筆者もこのシェアサイクルを積極的に活用しており、雨の降らない日はピーク時間でも満員電車を避けて移動することができるため、重宝しています。実際に利用してみることで、上記で示した点以外にもシェアサイクルを便利と感じる点がいくつかありました。ここでは大きく二点について述べていきます。
1.電動アシスト機能搭載
(1)坂道が多くても快適に漕ぎ続けられる
(2)それほど力を入れなくても一定の速度までは出せる
(3)時速24km以上ではアシストが利かない
2.利用の簡便さ
(1)専用アプリのUIが優れており、ポート選び~予約完了まで3タップ程度で済む
(2)利用開始時は予約完了時に発行されるパスワードまたは登録したICカードで解錠可能
(3)返却時は施錠して自転車に備え付けの返却ボタンを押せば返却完了、アプリに通知が来る
1-(3)は一見デメリットのようにも見えますが、これは道路交通法で定められており、スピードの出しすぎにより事故やトラブルの起こる危険性を抑えるための安全設計となります。シェアサイクルでは老若男女が同じ自転車を利用するため、「誰が利用しても同じ」である点は非常に重要な点といえます。
シェアサイクルの課題
特に、故障自転車の管理が挙げられます。シェアサイクルは以下のサイクルを繰り返す性質上、どうしても自転車の故障するリスクが高くなってしまいます。
筆者自身、何度か故障した自転車に当たってしまった経験があります。故障自転車を報告するにはアプリからサポート側に報告する必要がありますが、文字を入力する手間があり煩雑に感じられます。空港のトイレなどでも導入されている、利用後に満足度を4つのボタンから簡易的にフィードバックできる「HappyOrNot」のような仕組みを導入することで、不具合検知のスピードを上げるような対策が求められるでしょう。
シェアサイクル今後の展望
ここまでシェアサイクルの便利な点・課題点について述べていきましたが、今後シェアサイクルはどのように進化していくのでしょうか。ここでは二つのポイントに着目していきます。
シェアサイクルがMaaSに組み込まれるためには、地下鉄やバスなどの交通機関と同様の移動手段の一つとして捉えられる必要があります。先日東京メトロがリリースした「東京メトロmy!アプリ」では、経路案内にシェアサイクルのポート案内が組み込まれており、MaaSとしての第一歩を踏み出しました。今後はポートの予約や決済についても同アプリに集約していくことで、移動手段に関するあらゆるサービスの統合を進めていく必要があります。もちろん、こうした取り組みを首都圏から全国へと拡げていくことも重要です。
これまでは、利用者視点での「身近な事例」について現状と今後の展望までご紹介しました。企業側がどのようにMaaS領域で事業化していけばよいか、実際のプロジェクト事例に基づき、アプローチをご紹介します。
当社では、MaaS領域の事業化について、「①ビジネスモデル検討⇒②事業性検証⇒③実証実験・事業化推進」の3ステップで支援しております。各ステップで何をやるのか、を実際の事例とあわせてご紹介します。
①ビジネスモデル検討
このフェーズでは、海外先進事例・国内事例を踏まえた上で、クライアント企業の状況を鑑みた、実現可能なビジネスモデルの検討を支援いたします。第1回レポートでも述べたようにMaaS領域では「収益化」は大きな障壁の一つです。推進する企業にとっては、一事業として、収益性を担保したビジネスモデルの策定が不可欠です。
当社では、市場機会に合致した有望な事業案特定を目的に、「海外・国内事例調査⇒ビジネスモデル分析⇒ビジネスモデルの策定」というアプローチで、支援しております。
【ケース①】自動運転事業の戦略策定支援
②事業性検証支援
次は、策定したビジネスモデルに基づき、事業性フィージビリティを定量的・定性的な分析により検証します。
当社では、セグメント別にビジネスモデルのフィージビリティを定量的に検証することを目的に、「ビジネスモデルのセグメント分析⇒各セグメントへの影響評価⇒シナリオ別のフィージビリティ検証」というアプローチで、支援しております。
【ケース②】ラストマイル自動運転の事業成立性検討の支援
③実証実験・事業化推進支援
これまでのビジネスモデル検討および事業性フィージビリティの結果から、実証実験の計画、立ち上げ及び運営、事業化までの推進を支援します。ただ闇雲に実施して事業化につながらない実証実験ではなく、事業化につなげることを目的に、「実証実験計画策定支援⇒実証実験の立ち上げ、運営支援⇒実証実験の結果分析・評価支援⇒ビジネスモデルの事業化推進」というアプローチで支援しております。
以上の3つのステップで当社はMaaS領域を支援しております。MaaS領域に限らず、新規事業の立ち上げには、事業案探索と事業性検証を高速で回していくこと、が重要になってきます。市場の変化スピードが超高速化している中で、トライしない(机上の)戦略を長期的に練り上げても何の成果も得られません。戦略は実現して初めて成果が得られるものです。特に実行フェーズにおいて強みを持つ、当社ならではのスピード感あふれるコンサルティングサービスを体験いただければと思います。
次回のProduce Next Reportでは、近年注目が集まる「スーパーシティ構想」や「MaaSによって実現する未来の形」等、「MaaS予備軍」を卒業した姿についてご紹介します。